作:SASHIMI

AM02:47

いつもの時間 いつものコンビニ

俺はコーヒーを手に取りレジに向かった

するといつもの店員さんがいつもの煙草を持って

「これですよね」と言わんばかりのドヤ顔で待ち構えている

俺は笑いながら財布を取りだした

彼女は俺の家の近くのコンビニで働いている

同じ大学で2個上の先輩だ

ただサークルも受けている授業も違くて

彼女は研究生だから学校にいる時間も違う

会うのはこのコンビニのこの時間だけ

人通りも少ないコンビニだから

レジ前で立ち話をするような仲にもなって

ちょうど2週間くらいが経とうとしていた

俺は財布から1000円札を出し彼女に渡す

ただ今日の俺はいつもとは違くて

レシートとお釣りを受け取る代わりに紙を渡した

彼女は紙を見て「インスタ...」と爆笑する

俺は恥ずかしくなって

会計済みのコーヒーと煙草を受け取り

コンビニの灰皿の前で煙草を開け

手前の銀紙を取るとペンで電話番号を書いた

そして彼女のところに戻り

電話番号を書いた紙を置いた

すると彼女は笑いながら紙を受け取り

マスクを外し口パクで「連絡するね」と言った

口パクだから本当にそう言っているのかは分からないけれど

俺は頷いて家に帰りベッドに飛び込んだ

顔が嫌でも緩み心臓がいつもより早く音を鳴らす

明日連絡が来ることを信じて冴え切った頭を無理やり寝かしつけた


AM08:39

寝坊した、と理解するのに時間がかからなくて

慌ててスマホを見ると

彼女からインスタにメッセージが届いていた

『おはよう』

ただそれだけの連絡

だけど寝坊したことを忘れるくらい嬉しくて

なんて返信したらいいか悩んだ末

『お疲れ様』

とだけ送った

けどすぐに寝坊したことを思い出し

俺は準備をして学校に向かう

PM06:12

寝坊したことで友達にからかわれたし

午前の講義も全く頭に入らなかったけど

昼頃に彼女とメッセージで少しの他愛のない会話

これが凄く嬉しくて午後の講義は頑張れた

家に着くとまた彼女からの通知

彼女も煙草を吸うということ

実験とバイトが忙しくてあまり寝れていないこと

火曜日と土曜日はバイトが休みということ

最近流行りの映画を見に行きたいということ

そしてその映画を一緒に見に行こうという約束

彼女は実験している隙間時間で少しずつ連絡を返してくれた

AM02:59

今日は火曜日だから彼女のバイトが休みだけど

会えるかな、なんて思いながら

夜中コンビニに足を運んでみた

すると何故か休みの彼女がいて

こっちに気づくと笑いながら手を振った

コンビニの灰皿の前に立ち煙草を吸う

このまま時間が止まればいいのに...

幸せすぎてむせる

彼女は笑いながら俺の背中をさすってくれた

そして俺たちは今日あったことを話した

本当は今日寝坊したという話をしたら

彼女は笑いながら俺の頭を撫でた

その行動が弟扱いをされているようで

けど少し嬉しくて照れ隠しに煙草を吸った

その後も話は弾んで結局5時くらいになってしまった

彼女は「バイト先に用があるから」とコンビニの前で別れた

一生あの時間が続けばいいのに、なんて

人を好きになったら誰もが思うことなのか

本当は家まで送りたかったとか思ったり

俺は真っ直ぐ家に帰りゆっくり準備しながら

早めに学校に向かった

PM08:17

今日は少し友達に彼女のことを相談したりして

今日の彼女のバイトの時間に告白すると決めた

ただ彼女からの返信はなくて

実験も忙しいって言っていたし

寝れてないとも言っていたから今日は

メッセージを送らないことにした

自分の心臓を落ち着かせるためなのは内緒

何回も何回も頭の中で予行練習をして

本当に弟扱いで空回りだったらどうしよう、とか

不安も募る一方で

少し時間が止まってくれないかな、なんて

思っていても時間は平等に進むし

AM02:34

夜中のコンビニに行くだけのはずなのに

香水なんかつけて

「気合い十分かよ」

と鏡に映る自分に声をかける

いつもより早くコンビニに着いてしまった

入店してレジを見れずに

いつものコーヒーを手に取り彼女の元へ向かう

「コーヒー1点、以上でよろしいですか?」

ふと顔を上げる

そこに立っていたのは見慣れぬ男の店員だった

「...今日いつもの女の店員さんじゃないんですねポニーテールでマスクの」

そう言うと

「あぁ今日来てないんですよ、無断欠勤というか」

「そうなんですね、レシート大丈夫です」

俺はコーヒーを受け取り家に帰る

寝れてないって言ってたし家で寝てしまっているのかもしれない

家に着いてから

『いつもお疲れ様』

とだけ送って自分も眠りについた

AM8:40

講義室に入ると友達が駆け寄ってきて

「お前ん家の近くで事故あったらしいな」と言われた

「あ、そうなの?なんの事故?」

友達の話を聞くと

俺の家の近くで居眠り運転をしていたトラックが

女の人を跳ねる事故だったらしい

女の人はすぐに病院に運ばれたけど

病院で息を引き取ったとのことだった

「つかお前、昨日告白できたの?」

「昨日休みだったらしくて、いなかったんだよね」

「あーそうなんだ、じゃあ今日言うしかないな!」

友達は笑って俺の隣に座ると教授が来て授業が始まった

その日は昼頃になっても彼女からの連絡はなくて

もしかして風邪をひいてるのかな、とか

心配で講義が頭に入ってこなかった

PM06:43

家に着いても連絡はなくて

もしかして事故に巻き込まれたとか...なんて嫌な想像が走り出す

けれどそんな想像は捨てて

木曜日だから彼女も出勤だし

今日こそは、と意気込む

AM02:58

いつもの時間 いつものコンビニ

コンビニの扉を開けると

今日もレジ前に彼女はいなかった

コーヒーを持ってレジに行くと昨日と同じ男の店員

財布を取り出し話しかける

「...今日もあの人いないんですね」

夕方に考えてしまった嫌な想像が頭をよぎる

「...昨夜の居眠り運転の事故に巻き込まれて、彼女...亡くなりました」


時が止まったかのような感覚に襲われた

立ち尽くしてる俺に店員は声をかけてこない

「...すみません」

震えそうな声を必死に堪えながらそう言って俺はコンビニを出る

出た瞬間目に入る、コンビニの灰皿

あの日が最後だった

俺は震える手を抑えながら煙草に火をつける

けれど、動揺でむせてしまった

その日はそのまま灰皿に煙草を捨てて

家に帰った

学校に行かなくなって1週間

いつもより遅いペースで減っていた煙草も

一昨日にはなくなってしまった

俺は煙草を買いにコンビニへ向かう

適当に出たはずだったのに夜中の3時前で

けれどレジ前に立っていたのはこの前の男の店員だった

俺はコーヒーを持ってレジへ向かう

店員がこの前の俺だと気づきお辞儀をした

俺も少し会釈をして財布を取り出す

「あと、507番もひとつ」

「こちらでお間違いないですか?」

「お願いします」

1000円札を取り出し愛想笑いで渡す

何を期待していたのか

彼女はもういないと1週間前に知ったのに

店員からお釣りを受け取ると

「あの、お客様」と声をかけられた

「すみません、レシートは 『これ』」

店員は折り畳まれた紙を渡してきた

何かわからず受け取ると店員は続きを話す

「彼女のロッカーから出てきましたきっと貴方宛だと思うので持っていって下さい」

そう言って男の店員はお辞儀をした

俺はコンビニの灰皿の前で煙草を吸いながら紙を開いた

『 いつもこの時間にくる君へ
   好きです 明日のこの時間に答えを待ってます
                      10.5 』

10月5日...

俺が最後に彼女に会った日だった

「バイト先に用がある」の言葉を今察した

あの日渡せなかった紙

上を向くと自然と涙が流れた

同じ気持ちだったのに、俺は伝えられなかった

夜風が俺の頭を撫でる

きっと笑いながら撫でられてる

俺は煙草を一口吸って灰皿に捨てた

「 俺も好きだよ 」 

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