とある本屋さん
作者:あお
いつもは気にとめない路地に、今日は自然と足が向いた。
まるで吸い込まれるように入ったのは 小さな本屋さんだった。
ホコリっぽく薄暗い店の奥から出迎えてくれたのは 白髪に眼鏡をかけ、背中を丸めた男性だった。
老人「ここには、たくさんの物語があるからのぉ。どれでも好きな物を手に取って見てみると いい。キミの知らない人生を歩んでいけるよ 。」
男「人生...ですか。」
老人「そぉ~、1冊1冊が人生なんだ。 ほれ、これなんかどうじゃ? キミが未だに後悔しとる別れは、こんな結末もあったのかもしれん。」
男「別れ...」
後悔してる別れに心当たりがあった。
あの時、もし違った選択をしていたら、そんな事を繰り返し繰り返し、今でも考える。
渡された本を開くと、そこに描かれていたのは...
男「え?これって... 」
老人「ふふ、人生があったじゃろ? あの時選択しなかった、キミの人生が。」
読み進めていけばいくほど、あの時の記憶が蘇る。
あの頃の想いも、言葉も、これじゃあまるで俺がこの本の主人公だ。
老人「ふふ、驚くのはまだ早いぞ。 次は~これじゃな 」
また本を受け取り読み進めると、あの頃迷っていた夢の先が描かれていた。
男「俺に...こんな未来が ふふ、どちらもそう変わんねーなぁ。」
老人「...今キミは、また人生の選択を迫られて おるんじゃろ?」
男「え?どうしてそれを 」
老人「どちらを選んでも、どちらもキミの人生に 変わりはない。キミが歩く道をキミ自身が 選ぶんだ、そもそも間違いようがないんじゃよ 」
男「俺の歩く道... 」
老人「そう、キミが答えなんだ。 わかったら、もう帰りなさい。 しっかり見ただろ?キミの行く先が 」
男「はい! 俺ずっと迷ってて...でも、うん、決めました! ありがとうございます! 」
勢い良く頭を下げて、店の扉を開け放つと 振り返ることもなく駆け出した。
老人「わしにも後悔した選択があったんじゃ。そう、キミは迷わずその道をゆけ。わしは選択されなかった物語になるだけじゃ。 幸せな人生を。 」
あれからその本屋さんをどれだけ探しても見つけることは出来なかった。
同じ道を辿っても、周りの誰に聞いても知らないそんな不思議な本屋さん。
だけど確かに存在して、俺の選択肢は変わったんだ。