ヒグラシ
原作:☼*.。ひなた
台本:かにみそ大将軍
D:ダイアローグ M:モノローグ N:ナレーション
D:「はぁはぁ…来るのが遅くなってごめん」
N:僕は顔の前で手を合わせた。
D:「あれから結構経っちゃったね。もう僕は君の年齢超えたよ」
D:「君から見て、僕はどう?ちゃんとした、大人になれてる?」
N:君の代わりに応えたのは、1匹のヒグラシだった。
N:誰もいないはずの景色の中に、君を見た気がした。
M:あの頃の君のまま、悪戯っぽく笑ってた。
D:「そうだよね...君からしたら、いつまでたっても、子供のままだよね」
M:ここに来た理由を、君には見透かされてる気がした。
M:勇気が持てない僕を君に叱って欲しかった。
M:失う怖さを知っている。
M:得る怖さを知っている。
M:だから、君のようにあの人までいなくなってしまったら…僕は…
M:おかしいよね。本当は、君に報告しに来たのに。
N:僕は一人たたずんでいた。
M:ここにくれば、何かが見つかる気がした。
M:でも、それは錯覚だった。
M:逃げているだけの僕には
M:どうすることもできない。
N:君の足元に目を落とした。
N:備えてあるのはガーベラ、君が好きだった花だ。
N:ふと、君の言葉を思い出した。
女D:決して大きい花じゃない
女D:でも、この花の花言葉、知ってる?
女D:『常に前進』そして『希望』
女D:だからね、私この花のように
女D:小さくても希望を捨てたりしないの
女D:それに良く見たら結構綺麗よ
M:すっかり忘れてしまっていた。
M:涙が止まらなかった。
M:君が好きだったから。
M:僕も好きだったはずなのに。
N:僕は涙を拭った。
N:そして、振り返り歩きだした。
N:僕は心の中で君に伝える。
M:「ありがとう」そして「さようなら」
N:気づいたら、ヒグラシはもう鳴いていなかった。