煙草の煙
作:SASHIMI
カーテンの隙間を通って薄明るい光が差し込む
窓を開けるとまだ肌寒い風が吹き込んでAM4:17
冷え切ったサンダルに足を通してベランダに立った
今日は昨日より天気がいいのかな、なんて
まぁ、別に外に出るわけじゃないけど
タバコを一本取りだして火をつける
一口目、口に入れた煙をふかして吐き出すと
二口目は肺の奥まで煙を流し込んだ
ふと思い出す、タバコの煙を嫌がる君の顔
隣に来るくせに、煙を凄い嫌がって顔をしかめた
「...匂いが嫌なら来なければいいのに」
そういうと、君は首を横にぶんぶんと振った
君に縋り(すがり)つくように恋をしていたあの頃は
もう何年前になってしまっただろう
僕の人生でたった一人の 「忘れられない人」 だ
君は今、なにをしてるだろう、何を想っているのだろう
幸せに暮らしているのかな
なんて
友達に話した 「忘れられない人」 の話
「忘れられないとか今の彼女に失礼だろ」
って言われてしまった過去を思い出す
無理に忘れたい、とは思わないけど
脳裏に焼き付いて、記憶から出て行ってくれなくて
それこそ
忘れようと思ってる間は忘れられないし
「忘れられない人 = 好きな人」 って訳じゃない
それに君に注いだ愛と貰った愛があったから
いまの彼女をこんなに愛せてる自分がいて
君の時に出来なかったことをしてあげたい
そう思える人にも出会えた
そんなことを考えている間に
煙草の火種は消えて吸殻になっていた
吸殻を灰皿に捨て
新しいタバコに手を伸ばすと
ベッドから彼女が起き上がった
AM4:30
目の覚め切っていない君は
上半身だけ起こして
頭は下を向けたまま眠そうにしている
タバコに伸ばしていた手を引っ込めて
部屋に入り話しかける
「ごめん、窓開けっ放しだった、寒かった?」
君は下を向いたまま首を横に振った
「そか、起きちゃった?」
今度は、首を傾げながら僕の顔を見て腕を広げた
チラッと目を見て逸(そ)らしては唸る
僕はそれに応えるように
君を強く抱きしめた
僕の腕の中で苦しそうにしていた君は
埋もれていた顔を出し
携帯画面を僕に見せる
「この結婚式場いいね」
君があんまりにも眠そうに笑うから
携帯を取り上げベッドへ押し倒した
「また起きたら結婚式場、探そっか」
あの時の君がいたから考えることができた
あの時の君がいたから知れた愛があった
残りの人生、僕は今大切な彼女の為に生きようと思う
目蓋の裏で君の顔を思い出す
お互い幸せになろうね